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図書館経営論 ノート2

2010.10.31 Sunday
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    JUGEMテーマ:学問・学校

      図書館経営論 ノート

    ホームライブラリーの現状と課題

    1.実地観察による全体的感想

    (1)10館を訪問・利用・観察
    私は、2010年4月以来、10館に見学・利用した。館種で分類すると公共図書館(国、都・県、市・区)、専門図書館、大学図書館に行き、学校図書館以外“見学”したことになる。

    (2)どの館種でも専門家が不可欠
    ここから見えてきたのは、簡単に言うなら、図書館は、?コレクションすべてを背にして様々な課題が解決できる頼もしい存在である、?同時に、資料探索・情報検索のノウハウをもった専門家が必要だということだった。
    ネットワークが確立して膨大な資料が利用できたとしても、体系だったものや使用に耐えうる価値のあるものかどうか(著作権など含む)という判断はその道の専門家として司書が必要だということである。しかも、情報技術が発展するなかで、高度な情報リテラシーを備えた専門家がいないならば用をなさないのではないかという不安も出てきた。


    2.鎌倉市立中央図書館の現状と課題
      以上のような観察・見学、全体的感想をもちつつ、ホームライブラリーの鎌倉市中央図書館の現状を詳しく観察し、課題を浮き彫りにして、改善のための若干の提案をしたい。

    (1)市の特徴

    (1)-1 歴史
    鎌倉市は人口17万都市という中規模の都市ではあるが、日本の四大古都(奈良、京都、鎌倉、江戸)の一つでもあり、世界遺産登録を推進している都市でもある。
    それは約830年前に源頼朝が代々源氏ゆかりの鎌倉の地に幕府を定め、その後紆余曲折があったとしても江戸時代崩壊までの中世の始めであり、「封建制」始原地であったためである。

    (1)-2 現在
    明治以降はリゾート地・別荘地として栄え、現在も観光地・海水浴地として年間約2000万人の観光客が訪れる。また、東京駅・新宿駅から約1時間の通勤圏内のベッドタウンともなったが、市街地域の6割が「周知の埋蔵文化財包蔵地」、市面積の4割が山を含めた緑地、国指定史跡面積は市の4.6%あるという地域である(注1)。
    1960年代、古都保存法を制定するきっかけになったのは、年間300万人訪れる鎌倉鶴岡八幡宮裏手の「御谷」地域保存運動だった。市民が、文学者・大仏次郎や鎌倉五山第1位の建長寺管長も一緒になって開発反対に取り組んだ日本初のナショナルトラスト運動だった。これが、京都や奈良の古都保存にもつながった。現在も、常盤・広町・台峰地域の環境保全運動が進んでいる(注2)。

    (1)-3 市民意識と現状
    この市民意識の高さは市民生活についても現れ、2010年4月、鎌倉市は47.8%と高いゴミ・リサイクル率を示し、人口10万人以上50万人未満の市町村の中で、5年連続で鎌倉市が全国第1位のリサイクル率となっている(全国平均20.3%)。第2位が倉敷市なので、その共通性から考えると文化都市としての意識の高さを物語っている(注3)。
    鎌倉市は個人預金残高が日本一だということで銀行参入戦争をしていると日経新聞に騒がれたことがある(注4)。一方、生活保護世帯も4.5%(全国平均12%)あり、逆に見ると日本一格差のある都市でもある(注5)。


    (2)鎌倉市立中図書館の特徴
    (2)-1 来年100周年
    鎌倉市中央図書館は、来年100周年を迎え記念事業に向けて、神奈川県で最古の近代図書館として、図書館の歴史や在り方、自由についてのキャンペーンを行い、?市民全体への情報サービスを怠らない、?有料から無料への変化、?児童サービスなど、絵にかいたような「中小レポート」以降の鎌倉的展開の実践をパネル展示している。

    (2)-2 指標による分析
    『鎌倉市の図書館』(平成20年度事業報告)で、JIS図書館パフォーマンス指標にもとづいて自己分析しているように、鎌倉市の図書館(分館含む)に特に目立つ特徴は、
    ? 市民が貸出登録をしている率は同規模都市(小田原、海老名、伊勢原など)と比
    べて2割近く高い(70.8%)。
    ? 予約貸出比(総貸出点数にしめる予約資料貸出の比率)は、やはり同規模都市に比  して2倍の23.0%にものぼる(注6)。
    ? 『日本の図書館2009』によると、1000人当りの登録者数は100万都市の古都、
    大学都市の京都市と比べても、京都市270.4に対して鎌倉市245.9と遜色がない(注7)。
    これらのなす意味は、私は、文化都市としての「鎌倉」の住民性やそれに比例しての計画的な学習意欲の高さを示すと考える。

    (2)-3 施設など
    ? 貸出不可ではあるが、歴史だけでなく現在の鎌倉関連の資料も一か所に並んでい
    て閲覧しやすいことが、鎌倉ファンに便宜を供している。
    ? 幼児や児童に対する最大の配慮は児童幼児専用トイレの設置と場所に現れている   と思う。私の行った他の図書館では見当たらなかった(または目立つ所にない)。
    ? 椅子のきしみを防止するために脚にテニスボールをかぶせ、ペン立てにヨーグル   
    トの空き瓶を使い、本棚の仕切りにクリアーケースを利用、正面入口のカギ付き
    雨具立てがほとんど使い物にならない。
    すでに3年間利用している図書館ではあるが、世界遺産登録推進の裏で、涙ぐましい鎌倉市の施設整備費の節約が見える。


    (3)課題と提案
      地下書庫見学ツアーも申し込んだが予約が一杯で見ることはできなかった。それだけ人気も高く、市民(市外含む)の知る欲求の強いことでもある。以上のような文化都市としての意識の高さ、学習意識の強さ、知る欲求の強さから考えて、愛するべき鎌倉発展のために課題を明らかにし、必要な提案をしたい。

     (3)-1 レファレンス・サービスの改善
        年度別レファレンス件数の推移をみると、1998年から2008年の10年間で8倍に伸
    び、人口17万の都市で年間4万件のレファレンス要求がある。
     しかし、レファレンス窓口はあっても専任の担当者がいないので、近隣の逗子市立図書館のように、「レファレンス」窓口担当者(専門家)を明確にしてテーブルに座らせるべきである。誰に聞いたらいいかわからない、たらいまわしにされる、他の仕事で忙しそう、などの事態は避けるべきである。さらに、細かいことを言うと、雑誌には様々に鎌倉特集が組まれるが、それを集めた棚がない。新聞横断検索ツールの契約を停止して情報検索機能が低下している。
       また、失業者が増え、若者の就職が困難である。また、日本一格差社会の両極の悩み
    が潜在しているため、レフェラルサービスに緒を付け資産問題、貧困問題の第一歩の相談窓口の「窓口」とすべきと考える。

     (3)-2 児童サービスの検討
    ニューヨークの公共図書館、とくにブルックリン公共図書館では「健全な学びと遊びの場」として放課後の面倒をみ、インターネットなどをフル活用して宿題支援をしているとの報告がある(注8)。そのようなユース・ウイング(児童館的な役割)を持つスペースも必要である。一般的ではあるが、人口も文化も違う日本では塾や学童保育がそのような役割を一定もっている。ならば公共図書館との連携をもっと探るべきである。
    明るく開放的な図書館の入口近くに児童スペース(10畳程度、ドアが無い、カーペット敷き)が、セッティングしてある。児童用トイレがその近くにあり、靴を脱いでくつろげる空間になっている。これが親子ともども寝転んで、あるいは抱っこして本を読める空間になる。ただ、この場所が貸出デスクからは死角になっている点は改善すべきである。

     (3)-3 施設整備等
       構造全体の修繕は鎌倉市全体の予算にかかわる。世界遺産登録推進を言うならそれ
    にふさわしい図書館としての「体面」を保つ施設として予算を組むべきである。細か
    く言うならば上に述べた点を早急に改める。
     
     (3)-4 類似施設との連携強化
          鎌倉国宝館との連携については明示されているが、鎌倉文学館(資料館)との連携
    がないことは惜しまれる。文学館は鎌倉ゆかりの文学者の保存収集、展示などを行っている(注9)。かつては「鎌倉文士」などと言われ、夏目漱石が円覚寺に参禅し、芥川龍之介が『蜘蛛の糸』等を材木座地域で執筆、ノーベル文学賞受賞の川端康成はじめとした文学者が、綺羅星のごとく居住していた。それを現在稲村ケ崎に居住している若手芥川賞作家・柳美里までまとめているのが、鎌倉文学館である。ネットワークの構築をはじめ、人的交流をするなど連携強化をもとめたい。
     鎌倉市川喜多映画記念館が今年4月オープンした。映画資料の展示、映画上映をはじめとして、映画関連資料の閲覧やWeb検索もできる最新の記念館である(注10)。これとも連携がない。ビラ一枚、鎌倉図書館においていないか、目立たないので、鎌倉市の体制的な問題がある。


    (4)解決の方途
     (4)-1 情報ハブにするための図書館政策
    以上から、一言で言うなら地域の情報ハブとしての役割を予算面と情報面から補う図書館政策・計画が必要である。
     鎌倉市の文化施設は、鎌倉国宝館、鎌倉芸術館、鎌倉文学館、鏑木清方記念美術館、鎌倉市川喜多映画記念館がある。
       ところが、上述したようにバラバラな活動を展開しているので、それらを有機的に結びつける「ハブ」としての機能を図書館にもたせることで、地域情報のセンター、文化都市としてのセンターとする。
      このことで、それぞれ他の都市にはない歴史に裏打ちされた資料や現在の生活情報などが本当に役立つようになってくると考える。

    (4)-2 予算・人員獲得のための社会的マーケティング
      実際に情報ハブとしての地域拠点にするためには、予算の裏付けがどうしても必要である。高額のコンピュータやネットワーク、維持費、電子情報入手のための予算措置と人員配置等をすることが求められる。この予算と人員獲得の際にはPR(宣伝とパブリシティ)が必要であり、関係者が納得できうる理論の構築、費用対効果の説明などが求められる。そこに、「『思想、価値観』を売り物の対象にする社会的マーケティング」(注11)が不可欠となってくる。
    鎌倉市立中央図書館の場合は、?情報サービスの種類の多さ、どれだけの文献が検索対象となるか、?サービス対価への費用負担の適正化と公正さ、?駐車場、サービス時間、サービス提供時間など、?サービス価値のターゲット(研究や支援を求める人)に対する伝達、という4つの社会的マーケティングをすべき時である(注12)。開館時間が木、金以外5時までなので、サラリーマンは土日しか使えない不便さがある。
    また、現在、鎌倉美術館・博物館の建設計画があり、文化財を発掘しても保存するだけで死蔵していため、その活用等については課題とされていた。こういう資料や情報を結びつけるならば、市民意識の高さと相まって、さらに世界遺産登録への弾みとなるだろう。


    (注1)『改訂版 鎌倉観光文化検定公式テキストブック』鎌倉商工会議所、かまくら春秋
    社、2008年、p51-p67参照
    (注2)『鎌倉広町の森はかくて守られた』鎌倉の自然を守る連合会、港の人、2008年
    (注3)鎌倉市ホームページ(2010年7月26日参照)
    http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/shigen/kisyahappyou20100420.html
    (注4)日本経済新聞 2009年2月17日付
       「鎌倉には上場企業役員やOBのほか、芸能人などの高額所得者や資産家が多く住
    み、特に旧三菱銀行鎌倉支店は、国内銀行の支店で個人預金残高がトップになった
    こともある有名店で、今でも三菱東京UFJ銀にとっては「金城湯池」」
    (注5)神奈川県ホームページ(2010年7月26日参照)
    http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/15/1578/kikaku/nenpou/H18/fukushitoukei.
    (注6)『鎌倉市の図書館』(平成20年度事業報告)資料編 p46
    (注7)『日本の図書館2009』p152、p194参照
    (注8)『未来をつくる図書館』菅谷明子著、岩波新書837、p117-p125
    (注9)鎌倉文学館ホームページ(2010年7月26日参照)
       http://www.kamakurabungaku.com/
    (注10)鎌倉市川喜多映画記念館ホームページ(2010年7月26日参照)
    http://www.kamakura-kawakita.org/about.php
    (注11)『図書館経営論』柳与志夫著、学文社、2007年、p124
    (注12)同、p126-p128
        『図書館・情報センターの経営』高山正也編、勁草書房、1997年、p189-p198


    P.S.

     その後、2015年8月26日のニュースで、鎌倉図書館のTwitterで死ぬほどつらいなら図書館においで、という意味のツイートが「やさしい」と話題を呼びました。

     設備も大事ですが、9日1日に生徒の自殺が多いという統計が出たご時世では、こういう図書館の姿勢こそ今、必要ではないでしょうか。

     涙涙涙。

    図書館学私論|-|-|-|-|by ネコスキイ

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