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専門資料論 ノート 2

2010.10.31 Sunday
0
    評価:
    Bruce Alberts,Alexander Johnson,Julian Lewis,Martin Raff,Keith Roberts
    Garland Pub
    ¥ 16,727
    (2007-12-31)

    JUGEMテーマ:学問・学校

     専門資料論 ノート 
     
    学術情報の生産・流通・利用について
     
    専門分野の知識にはそれぞれの構造(Knowledge organization)がある。「学術情報・専門情報」について「学術情報とは、ある研究者コミュニティにおいてその研究領域の成果としてコミュニティが認定した専門情報のことである」「学術情報とは専門情報の一種である。専門情報とは、限定された事柄について集中的に学習して獲得した専門的な知識、技能があって初めて理解しうる情報、つまり専門的な知識を前提として伝達される情報である」(注1)と言われる。
    具体的に、これは学術図書、学術雑誌、会議資料、テクニカルレポート、研究報告書、学位論文、規格、特許資料のことである。
    これらの学術情報の生産・流通・利用について述べる。

    1.学術情報の生産

    (1)生産・媒体
    学術情報の生産は、研究テーマの発見から始まる。このテーマが見つかってから、先行業績の到達点を学術論文で確認することが多い。
    学術情報・専門情報の内、科学技術の発展への取り組みの成果は、学術論文という形で発表される。従来、紙媒体の学術雑誌に掲載されてきたが、近年では、パソコンで論文ファイルにし、それを電子ジャーナルにPDFファイルやHTML文書として公表され流通することが一般的になっている(注2)。
    この例として、米国科学雑誌「Cell」オンライン版に2006年8月に公開された山中
    京都大学教授の「iPS細胞」開発のニュースは世界を揺るがせた。

    (2)「見えざる大学」と「グローバルCOEプログラム」
     そういう情報の発表の前段階として、「見えざる大学」(invisible college)という情報共有媒体が発生する場合がある。
     特定学問領域において、少数の優秀な研究者によってインフォーマルなコミュニケーションのネットワークが作られる。そこで個人的な研究上の到達や学術情報がやりとりされるなかから優れた体系的理論構築の方向性が収斂してくる。
     このネットワークを形成する少数の優秀な研究者たちのつながりや集団のことを「見えざる大学」といい、最先端の学術情報を生産することになる場合がある。
     以上は個人的なネットワークであるが、文部科学省・日本学術振興会主導の「グローバルCOEプログラム」(注3)は、組織的・予算的な裏付けをもって学術情報の生成に貢献することになった。その目的は、「国際的に卓越した研究基盤の下で世界をリードする創造的な人材育成を図るため、国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援し、もって、国際競争力のある大学づくりを推進することを目的」としている。

    2.学術情報流通と動向
    (1)デジタル化ネットワーク
    学術情報については、先にも述べたように、インターネットを通じて配信される電子ジャーナルへのシフトが急速に進展している。特に英語圏の学術雑誌では大半がデジタル化しているとも言われる。ただし、電子版のみの雑誌はそれほどの数ではなく、紙媒体との並行出版が主流である。
     国による国立大学への特別予算措置がなされた2002年から、電子ジャーナルは顕著な伸びを見せて、この年を「電子ジャーナル元年」と呼ぶ向きもある。これは、研究室から容易にアクセスすることができ、速報性や検索性の利点を持っている。長期保存ができない問題があるものの、今や学術研究に欠かせない。近年、科学技術振興機構(JST)の運営するJ-STAGE(注4)など、国内学術雑誌のデジタル化とネットワークを通じた提供を支援する仕組みが国レベルで進展している。この分野の流通形態の変化に図書館は対応すべきときである。

    (2)「引用」
    「引用」という形で利用し、新たな研究分野を開拓する研究者も現れ、学術情報が流通する。研究者は、これらの研究による学術情報を社会に広め、応用等の機会を増大させるとともに、後継を育てていくことも任務になってくる。そのため難しい論文をくだいて解説する“サイエンス・ライター”も流通を一役になう。そこにまた学術情報の流通・利用が生じ世代的循環過程に入る。


    3.学術情報の利用
     専門家向け大量データベースとして利用に供する前提として、情報の「ストック」状態という場合があると、私は考えている。これは広義の利用の一部であり、現在多く電子情報として蓄積され利用に供されている。

    (1)電子版学術情報
      「機関リポジトリ」は、大学などの広報、宣伝、組織概要、大学案内、シラバス、学位論文、紀要、学術論文などの総体をさすと言われる。学術情報の論文等について言えば、国立情報学研究所(NII)の「次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業」の援助を受けた千葉大学学術成果リポジトリ(CURATOR)を嚆矢として、他の大学にも広がっている。

    (2)大学図書館の電子図書館化と学術情報ネットワーク
      我が国の国公私立大学の多くはキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)を整備し、それらの大学に付設された図書館は国立情報学研究所の管理運用する学術情報ネットワークに接続。さらに、インターネット・バックボーン(SINET 注5)から世界中につながっている。そして、アメリカ合衆国、イギリス、タイに向けて国際専用回線が敷設され、英国図書館文献情報センター(BLDSC 注6)と直接図書館間相互協力ができるまでになっている。
     多くの大学では、Web-OPACを公開し、各種のデータベースにアクセスできるように「図書館ポータル」を整備し学生・研究者に供している。 したがって、大学図書館の総体が、専門資料と世界的につながっているのである。
     研究者が書いた論文雑誌が雑誌価格の高騰のため図書館で入手不可能という事態は避けたいという背景のもとに誕生したのが、SPARC(Scholarly  Publishing and Academic Resources Coalition )の活動であり、「機関リポジトリ」や「オープンアクセス」を支援する活動を行っている。「オープンアクセス」とは、そもそも学術情報は無料で制約のないオンラインでの利用が可能であるべきだという考えと運動をさす。「オープンアクセス誌」の刊行は「著者支払モデル」を採用し経費をねん出している。
     
    4.生産・流通・利用についての注意
    しかし、以上の学術情報でさえ“嘘”が混在する場合がある。それは刹那の功名を求めたデータ改竄やマスコミの経済的構造も「デジタル・バイアス」として存在すると現場からの指摘もある(注7)。専門雑誌に掲載される際には、専門家同士の厳しい査読制度(レフェリー制度)があるため、オリジナリティの価値ある論文が掲載される可能性が高いとしても100%正しいかどうかは、まさに自然科学においては実験と観察、社会科学においては実証に待つ。これが、最大の“レフェリー”となる。
    2006年、再生医療に使える「万能細胞」についての韓国ソウル大チームの研究は、ねつ造であり科学倫理を踏みにじったことがハッキリした。この研究成果は堂々と専門雑誌『サイエンス』に発表されたものだったのに、である。最も注目される最先端の研究に対して「レフェリー制度」の大穴が明らかになった。韓国も国家挙げて応援していた“科学”でもあったから権威は地に落ちた。
    ところが、このようなことは一部ではない。アメリカでは「何らかの科学的な不正行為を犯したことがあるバイオ分野の研究者は、なんと3分1にも上る」という驚愕の調査結果がある(注8)。しかも、この調査結果は、科学雑誌『ネイチャー』にも掲載された。
    学術情報の分野でも生産・流通・利用の各段階で、自浄作用のシステムが求められていると言える。


    (注1)『講座 図書館の理論と実際 9 学術情報と図書館』海野敏ほか著、雄山閣、1999年、p18
    (注2)紙媒体の学術誌「プログレス・オブ・セオリティカル・フィジックス」(理論物理学の進歩)、通称「プログレス」は、1947年、朝永博士が「くりこみ理論」の論文を創刊第2号に発表し、65年にノーベル賞を受けた。「CP対称性の破れ」でノーベル賞を受けた小林・益川論文は73年に掲載。その後、世界中の研究者に引用され、2007年、1年間だけでも引用数は5264件に達する(2008年10月9日 読売新聞より)。
    (注3)「グローバルCOEプログラム」
    http://www.jsps.go.jp/j-globalcoe/index.html(2010年7月24日参照)
    (注4)J-STAGE (科学技術情報発信・流通総合システム)
    http://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja (2010年7月24日参照)
    満10周年を迎え、ジャーナル619誌(297,796記事)、予稿集・要旨集125誌、 報告
    書10誌などを提供中である。
    (注5)SINET 学術情報ネットワークhttp://www.sinet.ad.jp/(2010年7月24日参照)
    現在、SINET3(サイネット・スリー)学術情報ネットワークは、日本全国の大学、研究機関等の学術情報基盤として、国立情報学研究所(NII)が構築、運用している情報ネットワークである。学術研究及び教育活動の「情報ライフライン」を提供し、各種コミュニティ形成の支援、学術情報の流通促進を図っている。2010年4月からSINET4(サイネット・フォー)で範囲を拡大している。
    (注6)BLDSC The British Library Document Supply Centre
       http://www.maruzen.co.jp/home/irn/journal/dds(2010年7月24日参照)
    BLDSCは、逐次刊行物25万タイトル、書籍300万冊、レポート460万件、会議録37万件、学位論文59万件等を所蔵する世界最大級の文献提供機関。BLDSCには、世界中から毎日約15,000件の注文が入り、その内の約90%を所蔵資料で充足している。
    丸善や紀伊国屋書店から注文できるようになっている。
    (注7)『メディアバイアス:あやしい健康情報とニセ科学』光文社新書
    (注8)『論文捏造』村松秀著、中公新書ラクレ226、2007年、p5

     

    図書館学私論|-|-|-|-|by ネコスキイ

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