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まるくす勧進帳  2

2010.12.04 Saturday
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     第局堯.◆璽悒鵝Ε船Д奪・ポイント

    アーヘン国境警備警察朝礼 2008年2月

    トガーシュ 私は、内閣官房直属の国家安全保安機構、ドイツ国家警察庁から派遣された警視のトガーシュです。さてこのたび、ビスマルク三世総理が、1848年の「共産党宣言」を書いたマルクスの思想を弾圧したため、子孫のマルクス三世一味が国際貿易商と偽り隣国ベルギー国へ亡命しようとしているとの噂がビスマルク総理の耳に入った。
    そこで、ドイツ国境の出入口にチェック・ポイントを立て、商人を詮議せよとの厳命が下り、この私が、もっとも疑わしいこの国境アーヘンに派遣された。そのように考えていただきたい。
    警官 〃抻襦仰せのように、この間も職務質問で怪しい貿易商を捕え、拘留しております。
    警官◆…銘も届き心得ております。警視の後に従い、貿易商と見るならば、ひっ捕らえてみせます。
    警官 貿易商が来たならば、即座に拘留するよう、
    三人  警備、いたします(敬礼)。
    トガーシュ ウム、よく言った。もし、貿易商が来たら、公正な手続きで逮捕し、内閣官房が安心するようにしたい。みな、この重大任務を全うしようじゃないか。
    三人  承知いたしました。

    (エンゲルス、マルクスら国際貿易商として、工員の格好(?)、工具(?)、パソコンをもって現れる)

    マルクス なあ、エンゲルス君、行く先々にチェック・ポイントがあって、これではなかなか自由の街、ベルギーのブリュッセルには行き着かねーな。アーヘン、マーストリヒト、ブリュッセルか(ため息)。エンゲルス君の策略にしたがって国際貿易商に変装してはいるものの、すぐ発覚すると思うが。この格好ではね。どう?
    ヴォルフ 俺も、そう思うね。もっている工具やパソコンはなんのためなんだよ。
    (   )一気にチェック・ポイントを突破するのが俺の流儀なんだが。
    (   )これまでの革命への苦労は、今日こそ、
    (   )このポイントを突破することだ!
    エンゲルス ちょい待ち。何度も言っているじゃないか、今回の弾圧は歴史に逆行する大変な事態なんだ。わかってるだろ。このポイントを突破しても、さらなるポイントがある。ここを暴力的に突破しても、そう簡単にはベルギーには行けないぜ。だから策を練って変装してるんじゃないか。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のブラピよろしく、パスポートやビザまで偽造している。
      逮捕命令が出ている共産主義者同盟議長の同志マルクス君は、特徴のひげまで剃り、部下のように、われわれより後に引きさがっていれば、誰にもわからないと思うが。ひげのないマルクスなんて絵にならないぜ。だから、分かりっこないよ。その方が早く亡命できるはずだし。
     マルクス ともかく、エンゲルス「将軍」。信じるよっ。みんなも従ったら?仲間なんだからよぉ。
    4人   そうだな。
    エンゲルス 分かったら、チェック・ポイントへゴーだ。
    4人    よし、行くぜ。
     
    ○チェック・ポイント
     (車を乗り付けて)
    エンゲルス  さて、通ります。チェックしてください。
    警官  淵僖好檗璽箸鮓る)なに、貿易でマーストリヒト経由でベルギーに?(と言って上司トガーシュに報告)
    トガーシュ (奥から出てきて、にやりと笑い)貿易商だと?
    エンゲルス はい、ベルギーに貿易のため。毎年、各国にも行っております。乗員全員のパスポートをご確認ください。
    トガーシュ (パスポートを眺めて)お仕事、御苦労さま。国際社会で貿易は重要だが、このアーヘンでは貿易商に限り、通過させないよう通達が来ています。
    エンゲルス へー。知らないですね。公報に出てましたかね。この自由貿易社会で何の理由があって?ココム規制でも?時代遅れだな、北朝鮮からの密輸でもあるまいし。
    トガーシュ そう思うのも当然ですが、政権が代わってビスマルク政府が急にマルクス主義思想を取り締まるようになり、その孫の首謀者マルクス三世一味が機をうかがって、国際貿易商と偽り隣国ベルギー国を頼って、亡命しようとしているとの噂。これがビスマルク総理の耳に入ったのです。そこで、チェック・ポイントの警備を強化して、大きな国境の街、アーヘンについては私が中央から派遣されているのです。疑って申し訳ないが、お許しください。
    警官  別祇連絡で)警視、国際貿易商を公正な手続きで拘留せよとのことです。
    警官◆,茲みれば、大勢の仲間じゃないか。え。
    警官 が、通達的には、一人も通すことはできません。
    三人  通せないんだ。
    エンゲルス 通達を盾にしますか!! 仕方ない法治国家だ。わかりました。でも、それは偽物を拘留せよという通達であって、本物を逮捕せよということではないですね。念のため。
    警官 ,い筺∈鯑も貿易商を拘留している、
    警官◆,燭箸─∨槓の貿易商だとしても容赦しないというお達しだ。
    警官 共産主義者は無理に通れば命が、
    三人  危ないと思え。
    エンゲルス ところで、その拘留している貿易商はマルクス三世本人なのか?
    トガーシュ さてね、どうだろう(とニヤリと笑う)。問答無用、一人も通さない。
    三人    そのとおり。
    エンゲルス 官僚のあなたがたなら、それも当然か、がっかりだ。期待した政権交代が成功しても、われわれが疑われること自体、われわれインターナショナルな貿易商の信用不足。ならば最後の勤めをしたうえで、お裁きを受けようじゃないか。さあ、みんな、行こう。
    四人    わかりました。
    エンゲルス よろしいか。さあ、これで最後のつとめ。出発、出発。

    (トガーシュ、やや思い入れあって)

    トガーシュ 粘りある覚悟だね。先ほど聞いたように、国際貿易らしいが、パスポートはともあれ、よもや、貿易契約書一式がないことはないでしょうな。ぜひ、拝見させていただきたいものですな。読んでいただいても?
    エンゲルス なんと、契約書を読めとおっしゃるのか?
    トガーシュ いかにも。商談なら当然もっているはず。
     (エンゲルス、やや思い入れあって)
    エンゲルス そ、そうですが、それは法人の秘密情報です。が、国家権力をかさに、読めとおっしゃるなら疑いを晴らすため、読みましょう。業務上知りえた秘密を口外しないとお約束できますか。(トガーシュ、うなずく)
    では、(さっと契約書を取り出す)
     売買基本契約書
    (と、トガーシュ、契約書を覗く。エンゲルス見せじと正面を向き、キッと思い入れ)
     株式会社 バルメン・エンゲルス・アソシエーション(以下、「甲」という。)と、株式会社 ブリュッセル・デジタル通信工業(以下、「乙」という。)とは、甲と乙の間における継続的商品取引について、次の通り、基本契約を締結する。
    第1条 甲は乙に対して、別紙商品目録記載の甲の取扱い商品(以下、「商品」という。)を、継続的に売渡し、乙は、これを継続的に買受ける。
    第2条 商品の再販売先、再販価格、数量等の再販条件については、甲乙協議の上別途これを定める。
    2 乙は、前項に基き定められた再販条件を誠実に遵守するものとする。
    第3条 個々の取引きにおける商品名、種類、数量、価格、受渡および代金支払条件等については、本契約に基づき別途定めるものとする。
    第4条 乙は甲に対して、乙の再販数量、在庫数量等につき、甲指定の書式に従って毎月報告するものとする。
    第5条 乙は甲に対して、本契約に基づく乙の販売活動に影響を及ぼすおそれのある事由が生じたときは、あらかじめ、書面をもって甲に通知するものとし、乙の事業に変更を加える場合には、更に甲からの事前承諾を受けるものとする。
    第6条 この契約に基いて生ずる甲に対する乙の債務を担保するために、乙は甲の指定する物件に対して根抵当権を設定する。
    第7条 本契約の有効期間は、平成22年4月1日から平成24年3月31日までの満2か年とする。
    2 期間満了の3か月前までに、甲乙の双方から、何ら申出のないときは、本契約は期間満了の翌日から自動的に満2か年間延長されるものとし、以後も同様とする。
    第8条 甲及び乙は、3か月前の書面による予告を相手方になすことにより、本契約を解除することができる。
    第9条 乙が本契約の条項の一に違反したときは、甲は乙に対して何ら事前の催告なく、本契約を直ちに解除できるものとする。
    第10条 乙において次の各号の一に係る事由が生じたときは、甲は乙に対して何ら事前の通知なく、本契約を直ちに解除できるものとする。
    (1)乙が甲に対して代金の支払を滞納し、または甲の業務上の指示に従わなかったとき
    (2)その他本契約に基づく甲と乙との信頼関係が損われたとき
    第11条 天災地変等の事由により、甲から乙への商品引渡しに支障が生じた場合には、甲は乙に対して何ら損害賠償の責に任ずることはない。
    第12条 乙は甲から要請があったときは、甲の認める連帯保証人を立て、かかる連帯保証人に、甲に対する乙の債務を乙と連帯して保証させるものとする。
    第13条 本契約に定めのない事項が生じたとき、又はこの契約条件の各条項の解釈につき疑義が生じたときは、甲乙誠意をもって協議の上解決するものとする。
     以上、本契約成立の証として、本書を二通作成し、甲乙は署名押印のうえ、それぞれ1通を保管する。
       平成22年2月  日
    (甲)  住所  ○○州○○市○○
        株式会社 バルメン・エンゲルス・アソシエーション 代表取締役  ゲオルグ・エンゲルス
    (乙)  住所  ○○州○○市○○
        株式会社 ブリュッセル・デジタル通信工業 代表取締役 フランソワ・ヘップバーン

    (天に響けと読み上げ、契約書を納めて不動の見得をなす)

    トガーシュ こうやって国際契約を読み聞かされると、疑うことはできないな。ところで、ついでに聞くが、この資本主義の世の中でビジネスマンは様々。中でも貿易商は各国の法律の違いを乗り越えて、国を行き来する。何か共通の国際商売哲学はあるのか?
    エンゲルス よくぞ聞いていただきました。もともとわが社は、技術をもとに設立された会社。やがて国際貿易部門のみ切り離してアウトソーシングされています。が、その会社運営の趣旨は、本社の趣旨と変わらない。まず、その本社の設立の趣旨とは。
     まじめな技術者の技能を、最高度に発揮させるため、自由豁達で愉快な理想の工場ユートピアの建設、
     新自由主義に荒らされた日本を再建、文化向上に対する技術面、生産面からのアプローチ
     諸大学、研究所等の研究成果の内最も国民生活に応用、価値を有する優秀なるものの迅速な製品、商品化
     デジタル通信機類の日常生活ヘの浸透化並びに家庭オール電化の促進
     転換期にふさわしいデジタル機器、環境の時代に対応した省エネ製品の製作
     「理科離れ」に対する教育・普及活動
    そして、経営方針は、
     不当な儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、虚業を排して徒らに大規模化を追わず、
     会社の余剰利益は適切な方法をもって全従業員に配分、又、生活安定の道も実質的面より充分考慮して援助し、会社の仕事即ち自己の仕事の観念を徹底する。
      これです。

    トガーシュ それは立派な。それにしても、その工員の格好はいったい何なんだ! ヘルメットにヘッドライト、工具箱とは、どう説明するんだ!
    エンゲルス こ、これは(と、ヒア汗をぬぐう)。すなわち、ヘルメットは工員・技術者の象徴に等しく、腰には道具入れ、手には軍手でほこりっぽい配電盤を管理し、高山絶所の変圧器を見てまわるためだ。
    トガーシュ  貿易ビジネスマンなら「洋服の青山」スーツと決まっているんじゃないか。工員の服装に五体を固める理由をどう説明するのか。
    エンゲルス  し、失礼な! 工員の格好はわが社のユニフォーム。会長、社長をはじめとして、冠婚葬祭にも着て行くのだ(トガーシュ、「えっ」と目をむく)。わが社の汗と涙の結晶を馬鹿にするな。バブルの時も株に重きをおかず、派遣を切らずリーマンショック後を堪えているのは全従業員を大切にする社風なのだ。それが社会全体の大勢にならないのは政府の責任だ。「わが亡きあとに洪水よきたれ」、これに堪えている証拠がこのように汚れた格好なのだ。
    トガーシュ  ほう。では、そのような技術者の行動哲学とは。
    エンゲルス  田んぼの案山子に似ているといえども(と、社員全員案山子の格好をする)、たんにやつしているというわけではない。働くルールを破るものは、たとえ大企業とはいえども、それに立脚する政府や無理難題構造改革を要望してくるアメリカ政府でさえも、ただちに拒否するという意気込みの表れだ。
    トガーシュ  そういう目をさえぎる形あるものにたいして抵抗はできようが、もし、形の見えないルールのない資本主義哲学、投機マネーにどう対抗しようというのか。
    エンゲルス  形の見えない投機マネーは、国際政府で規制するから、なんの難しさがありましょうか。あとは世界の指導者の決断にかかっているのみ。
    トガーシュ  それにしても、その工員の格好とは嘆かわしい。
    エンゲルス  つまり、会社理念の象徴です。
    トガーシュ  ヘルメットにヘッドライトはどう説明する?
    エンゲルス  これこそ、ほこりにまみれた「誇り」なのだ。光をもってこれを戴く。
    トガーシュ  腰につけた道具入れは?
    エンゲルス  技術を基礎に生産する労働力の表現。
    トガーシュ  足にはいてる黒い靴は、いかに?
    エンゲルス  「安全靴」といい、指先を鉄板で保護している。労働安全法を順守するコンプライアンス。
    トガーシュ  さてまた、設立趣旨の「工場ユートピア」とは。
    エンゲルス  私のバルメン・エンゲルス商会、他国にも支社がある。ロバート・オーエンの工場思想を模したものだ。
    トガーシュ  その主張は?
    エンゲルス  その源泉はヘンリー8世に処刑されたサー・トマス・モアにある。かのシェイクスピアも戯曲にしたイギリスの大法官だ。搾取することなく、剰余価値は労働者に再配分する。
    トガーシュ  そもそも、「社会主義」の4文字は、いかなる意味とお考えか?(と、カマをかける)ことのついでに聞いておきたい。
    エンゲルス  社会発展のことで、未来の社会のあり方だ。地球環境を破壊し、投機マネーで経済を破壊し、恐慌が止められない資本主義がいつまでも、この形のまま存続するわけがない。COP15の不団結をみてもおわかりのことと思う。旧ソ連や中国は、実体として「社会主義」ではない。ことにソ連は十月革命でなしとげたのは「社会主義革命」ではなかったのだ。日ソ独伊四国同盟を組んで世界を分割しようとしたソ連が「社会主義」であるはずはない。マルクスは「マルクス主義」ではなく、レーニンはマルクスを読み間違えていたのだ。中国も、「社会主義」をめざしてはいるが、憲法で国家が「領導」して社会主義社会を実現しようというのは、本末転倒。「社会主義」は、民主主義の徹底による資本主義の発展解消その上にある現実社会です。社会主義社会になれば、自治も飛躍的に発展するため国家は死滅する。なにより、搾取と抑圧が無くなります。「共産主義」と「社会主義」は同じ意味です。わが社はバルメン・エンゲルス・アソシエーション、つまり「アソシエイション」は社会主義会社の先駆け、今はやりの「エコな会社」から働く人を大切にする「アソな会社」になっているんですよ。
    (トガーシュ、ほーと感心する)
    トガーシュ  ははは。これはこれは、初めて聞いた。こんな未来社会を展望した社会観、歴史観をもった貿易商とは驚きだ。敬服いたします。少しの時間でも疑ったのは眼あって無きが如くの私の不徳。何を逮捕しようとしていたのか、悔やまれます。この一行にはビスマルク総理が懸念する「マルクス三世」はいない。今からむしろ応援し、カンパしたいぐらいだ。君たち、カンパ代を経費から落としてくれ(と、警官に命ずる)。

           (カンパ箱が並ぶ)
    トガーシュ  近頃は、企業からの献金がますます先細り、時の政府を支える党も下火になっているのだ。むしろ、あなたがたのような企業が栄えれば、私も潤うというもの。ひとえにお受け取り願いたい。情けは人のためならず。
    エンゲルス  それは願ってもない有難いことです。会社経費削減のおり旅費の助けになろうというもの。ただ、警察から、しかも経費でカンパを戴こうなんて考えられない。かつて、いや、今も、警察は労働者としての団結権から排除された、まさに弾圧機構として存在しています。重ねて、申し上げますが、我々は諸国をめぐり商談をまとめる会社員、春には帰国するので、それまではかさばるほどのカンパ・品物はお預けしとうございます。
           ささ、みんな、このポイントを通ろうではないか。
    四人     行こう、行こう。
    エンゲルス  急げ、急いで。
    (警官、トガーシュに何か囁く)
    トガーシュ  (血相を変えて)止まれ。貿易商。
    エンゲルス  慌てて事をし損ずるな。(と、部下をせきたてながら花道に行きかかる。変装したマルクス、おずおずと遅れて従う)
    トガーシュ  止まれ、止まれというんだ。
    エンゲルス  なぜ、止まれと?(トガーシュに向き直る)
    トガーシュ  そこの、あなた部下の営業マンが、チト、似ているということなので、止めたのだ。
    エンゲルス  人が人に似ているとは珍しからぬこと。さて、誰に、似ているのか?
    トガーシュ  いえね。共産主義者同盟議長マルクス三世に似ているというウチの警官がいましてねぇ。
    エンゲルス  なに、マルクスに似ている会社員がいると!ああ、腹立つな。こんな厳冬に国境を越えて商談に向かうところ、わずかの工具をもって後にさがっておずおずと不安げに従うから、人に怪しまれるのだ。お前(マルクス)は、業の深い奴だ。会社への忠誠心の不足から来るのではないか。何考えてんだ、この奴隷やろう。正々堂々とせい!
    (と、さんざん、ピヨピヨトンカチでたたく)
           早く、通りやがれ(足蹴にする)。
    トガーシュ  しかし、理由がなんであろうとも、通過させること、
    警官3人   まかりならぬ(断言する)。
    エンゲルス  言っておくが、取り調べで工具箱に手をかけるとなると、あなたたちこそ盗人になりますよ。
    (と、双方、喧嘩になりかかるが、エンゲルスが止めに入り)
           まだ、この上に嫌疑がかかれば、工具箱もろとも国境警備に預けます。取り調べてくれ。ただ、返り血を注意したほうがよいが(と、脅す)。
    トガーシュ  これはこれは、失礼しました(と、ビビる)。先輩、お許しを。
    エンゲルス  ではなぜ、今、疑ったのか(と、凄む)。
    トガーシュ  部下が私に囁いたからだ。
    エンゲルス  では、逮捕したらどうなんだ。
    トガーシュ  早まり給うな、フリードリッヒ・エンゲルス三世さん。下級警官のひがみから、マルクスでもない部下を疑われて、このように殴ってしまったのですから。今は、疑いが晴れました。さあさあ、お通りください。
    エンゲルス  トガーシュ警視のお許しがなければ、忠誠心のないお前なんか捨ててしまうものを、よくも大赦の幸運を得たものだ。以後は、慎めよ(とマルクスに目配せする)。
    トガーシュ  それでは、私は、なお他に国境警備の任があるので、ここいらでお暇します。みな、来い。
    三人     はい。
    (トガーシュら上手へ、エンゲルスら下手へ)
    マルクス   さて、(と、安堵の様子)先ほどの機転、みごとだったな。さすが、「将軍」といわれる知恵だ。当代思潮の「社会主義」云々の是非の論争はせず、ただ、社員の忠誠のせいにして愛の鞭をふるう。初期資本主義のような微妙な点をトガーシュと共感して、私を助けてくれた。マグダラのマリアのように私を生き延びさせてくれた。かたじけない。
    (    ) ヒェー、警備隊に呼び止められたときは、肝を冷やしたぜ。
    (    ) オーマイガッ、ってところだっちゃ。
    (    ) まさに、「将軍」の知恵がなければ、通り抜けられなかったぜ。
    (    ) ああいう芝居は、俺たちにゃ、できないってーことよ。なあ、モール。
    四人     驚き入って候。
    エンゲルス  「世も末」とはいうものの、捨てたもんじゃない。今年生まれた子どもたちの何万人かは22世紀を見て死ぬ時代なんだ。とはいえ、計略とは言いながら、同志マルクスを殴り部下にしてしまうとは、無神論者に天罰がくだるよ。マッチョをもって任ずるボクでさえ、腕がしびれるほどの感覚だった。申し訳ない、申し訳ない。
    (泣いたことのないエンゲルスも号泣する)
    マルクス   思い起こせば、資本主義時代に生まれた私は、弁護士の家で育ち、社会変革に命を捧げ、資本の非人間性に怒り、アメリカ政府の横暴とたたってきたのです。なのに、新政府の眼鏡にかなわぬ主張ゆえ、命を捧げたその社会にまで誤解され、さらに排斥され、このように亡命の途上にある。
    エンゲルス  臥薪嘗胆。ぼろを着て、あるときは車の荷台、あるときは風の吹き込む支所に寝起きして、世界をめぐる情勢に喜怒哀楽、取引と株価に目を凝らした日々。ソ連崩壊にもろ手を挙げて市場拡大の行方を見つつ、巨悪の解体に喜んだも束の間、「社会主義」偏見に打ちひしがれた毎日。精神性ばかり強調する社会。レーニンの間違いと原点に戻ることが大切と、自分を責めてばかりいた。萎れかかりしオニアザミ、霜に露置くばかりなり。

    (と、感傷に浸っているところに、警官、下手よりワインとグラスをもって寄ってくる。)

    トガーシュ よう、貿易商どの。ちょっと一杯いかがかな。上等なモア・エ・シャンドンがありました。見聞深い国際情勢でも聞かせていただきたいものだ。疑ったりして面目なく思い、一献勧めようと考えてのことだ。警察とはそういうものと諦めてくだされ。
    エンゲルス おおっ。この寒い中、感謝、頂戴いたします(後ろ向きにぺロッと舌をだす)。警察だから雪見酒ってやつですか、はっはっはっ。(笑う)。
    (しばらく、杯を酌み交わし、トリビアで談笑する)
    エンゲルス お酌いたしましょうか、トガーシュ先輩。
    トガーシュ おお、ようこそ先輩。国境アーヘンに。それはそうと、チェック・ポイント通過の記念に本場のジャマイカでならったというサルサを一差し舞ってくださいませんか。
    エンゲルス では、永遠のサルサを舞いましょう。変化こそ永遠とね。
    (エンゲルス、飛び六方で苦しさを表現しつつ、ポイントを通過していく)

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