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財政論ノート(2002年) 社会保障の心

2011.10.12 Wednesday
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    JUGEMテーマ:学問・学校

     特に、医療保険分野の社会保障から見た財政問題について論じる。

     その給付が現役世代に直接影響があり、少子・高齢化と財政赤字にあって、その財政的保障の維持が国民的議論になっているからである。マクロにその原因を観察すると、毎年、国と地方で公共事業50兆円、社会保障22兆円の支出となっている(参照1、2)。ところが、主要国のほとんどがその反対の予算枠組みになっている(参照3)。 国家予算の中で社会保障制度を考えると、「赤字国債」=将来の借金を返済しつつも、道路族・建設族政治家の「聖域」に踏み込めば、医療保険においてさえ公的補助比串をたかめる努力はできるとのスタンスで考えることも必要であろう。
     医療保険の内、とくに被保険者・加入者の多い健康保険、国民健康保険について、社会保障における財政問題を論じる。


    ◆健康保険

     医療費の増加が社会問題化し、少子・高齢化を迎えて地方財政や国家財政を将来維持できるかどうか憂える状況になっている。高額な診療報酬単価の引き下げ、健康増進対策による持病の克服など自己責任が求められる。
     国民医療費は、85年度の16兆円に対して、2000年度は3 4.3兆円となり、国民所得に対する割合も、8.0%になった(参照4)。 ドイツ、フランスが11.7%、アメリカ12.4%に比較して少ない(参照5)。この対国民所得比の低さにも関わらず、平均寿命が世界最長、乳幼児死亡率も低いため、わが国の医療制度は効率的と評価される。
     しかし、厚生省(当時)の試算では2025年の国民医療費は104兆円、うち老人医療費が56兆円にも昇るとされたため、99年の健康保険組合老人医療拠出金支払い拒否事件にみられるように、高齢化が政府管掌健康保険、健康保険組合の保険財政におよぼす影響は大きい。医療保険制度改革は緊急かつ重要であると言える(参照6)。
     こういうときこそ、なぜ、政府が保険者になって加入を義務づける必要があるのかが根本として問われなければならないと考える。それは、民間だと「保険に加入するのは身体が弱い人たちが主になり、保険会社にとって好ましくない加入者が増えて保険料が高くなる」という「逆選抜」が生じ「公正の観点から望ましくない」(参照7)ため、低所得者を保護する目的で制度化されている。
     一方で、受診抑制だけでは、国民の最低生活(この場合、健康)は守れず、必要な受診抑制が、病状悪化を招き、全体として医療費が増大するという分析もある。
     たとえば、平成15年4月から、健康保険によるサラリーマン本人3割負担が実施された。もともと、3割負担だった健康保険家族の受診率は前年度比で低下していないにもかかわらず、サラリーマン本人の受診率が前年同月比で低下している(4月〜10月にかけて4.2%マイナス、参照8)。この間の、医療費総額と診療件数も急激に減少している。
     この数字からは「患者負担の増大が受診の必要以上の抑制、とくに低所得者を医療サービスから排除し、結果的にはかえって医療費の増大をもたらしてしまう」(参照9)との指摘は一部的中したといえる。
     このように財政論からすれば、制度の改革で医療費抑制の目的が達成されたと評価されるが、憲法25条の要請からは乖離した現象がおこっている。 たとえば、京都のある医師は、この窓口負担の変化が住民の健康状態にどう影響しているか、経済的理由のため治療を中断し病状悪化の事例を具体的に紹介した(参照10)。
     個別の問題ではなく、保険医団体連絡会東北6県の調査アンケートでも、3割負担になって「不安を感じる」という人が9割に上っている。これらは、憲法25条、生存権を脅かされている一つの証拠であり、現在または将来に向けての消費支出を控える理由であろう。ある意味で不況の遠因になり、ひいては所得税、消費税、法人税へ影響、財政悪化の原因にもなりうる。
     「給付の本質は所得再配分である。しかし、多くの場合計画的というよりはアド・ホックに制度が導入され、・・、不正受給・不適正受給が避けがたく、非効率や無駄も多い」(参照11)としても、命と健康の不安、将来の不安をも招来することは「構造改革」財政論の目的ではないはずであろう。
     健康保険本人負担3割を2割に戻すには約400億円必要だが、無駄な公共施設・公共事業(たとえば、厚生労働省所管「スパウザ・小田原」は約400億円)をなくせば、捻出できる予算である。

     

    ◆国民健康保険について

     国民健康保険被保険者数は、2 001年 (平成13年、これが最新版)9月末現在、4834万人、総人口にしめる国保加入者は、3 8.0%。被保険者数では、最大であり、不況、失業を反映してその数は増えつつある。市町村国保の世帯主の職業は、「無職」が5 0.9%、初めて過半数を超した。20万人以上の大都市では、「被用者」2 9.2%、「自営業」19.4%と高くなっているのが特徴である。また、96年から2001年度の5年間を見れば、失業・転職等の影響で、55歳〜59歳の働き盛りの年齢層が国保被保険者数は約1.6倍に増えている変化が見て取れる(参照12)。
     国民健康保険への国庫負担は3.7兆円(うち国庫負担率3 5.9%)であるが、特に保険者である市町村組合の保険財政赤字が80年代以降問題になってきている。
     国民健康保険の理念を厚生労働省は、「国保は被保険者全体の相互扶助で成り立つ社会保険制度であり、各保険者におかれては、こうした法令の趣旨を十分ご理解いただきたい」と説明している(参照13)。
     この説明から見ても、社会保障制度の一つである国民健康保険法の精神から誤った考えに陥っているため、国の責任、国庫負担を増やす方向には政策転換できないでいる。昭和33年の改正の堀木厚生大臣の趣旨説明では「国民皆保険態勢の確立のために国の責任を明確化」と答弁しているにも関わらずである。そのうえ、この「社会保障は相互扶助」であるとの論理が、失業・倒産など善意の国保料滞納者を攻撃する論理になっている。
     この滞納を直接の原因として、市区町村の保険財政悪化をまねき、一般会計からの補填と一般行政へのしわ寄せ、その延長として無理な徴収がまかり通ることになる。 8割の被保険者は年収300万円以下で暮らしているにもかかわらず(参照14)、もっとも滞納が多い横浜市などは、国保収納率が下がると調整交付金が下げられる(一種の国からのペナルティ)、そうすると国保財政が悪化してさらに保険料が値上げされる。そうすると払えない人が増えて収納率が低下するという「悪魔のサイクル」に墜落している。
     この落とし穴から財政的に抜け出す道は、サラ金のように滞納を取り立てるのではなく、国庫負担を増やすことや保険者の再編・統合による効率化を考える必要がある。

     

     ◆結論

      国庫負担を増やして、制度の持続と発展を図るために、財政の入口として、その制度の   支え手の少子化の解決、失業大幅減少など総合的な対策を打つとともに、出口として、 国家予算配分のあり方を社会保障中心に使う(欧米がそうであるように)大なたを振るうべきである。何故なら、予算は国民のものであり、景気の最終的な支え手だからである。
     


    【参照】

    1.総務省『行政投資実績』平成14年/
    2.国立社会保障・人口問題研究所資料「社会保障財源の項目別推移」/
    3.第9回社会保障審議会資料/
    4.厚生労働省統計情報部資料、医療保険制度研究会『目で見る医療保険白書』/
    5.健康保険組合連合会『社会保障年鑑2003年版』/
    6.木村陽子『年金・医療保険論』放送大学教育振興会、P205。03年 /
    7.奥野信宏『公共経済学』岩波書店、P192、01年/
    8.厚生労働省保険局調査課「MEDIAS 一最近の医療費の動向−」/
    9.片桐正俊『財政学』東洋経済新報社、P208、97年 /
    10.「国民皆医療の回復をめざす」第3回フォーラム資料/
    11.林健久『財政学講義』東京大学出版会、P194〜P 1 9 5 /
    1 2.厚生労働省「国民健康保険実態調査報告」/ 
    13.2000年『滞納問題に関するQ&A』/
    14.横浜市・国保滞納者資料

     

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