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世界思想史ノート ロマン主義から剰余価値論への発展

2011.10.12 Wednesday
0
    評価:
    ハインリヒ ハイネ
    未来社
    ¥ 2,625
    (1994-06)

    JUGEMテーマ:学問・学校

     1.結論から言うと、ヘーゲルは、ロマン主義的理性を哲学的に自己完結させた。その中心思想は現実は絶対理念の自己展開であると考える客観的観念論、理性史観と方法としての弁証法である。また、マルクスは、ロマン主義的理性を社会経済学的に変態(メタモルフオーゼ)させた。その中心思想は唯物史観(弁証法的唯物論とその歴史への適用)と剰余価値理論(「労働の価値」と「労働力の価値」の差を剰余価値と言う)である。奈良和重氏は、イデアリズムとロマン主義、この両者をあわせもつドイツ精神(Geist)、その独自の思考パラダイムを「ロマン主義的理性」と設定し、シュクラールが、啓蒙主義に反抗する「ロマン主義的精神」と特徴づけたものと同じ位相であると言う。


     2.では、その「ロマン主義的精神」とは何か、どういう歴史的発展をとげたか、まず概観してみよう。(注1)
     ロマン主義は啓蒙主義にたいする美学的反抗の中から生まれた。ディルタイは「ルソーは最初のロマン主義者」と言う。啓蒙主義・思想とは、宗教にたいする批判的態度をもち、科学的合理主義を原理とする。それは〈正しい立法〉と〈教育〉によって達成され、人間の歴史は「進歩」の歴史であると考えた。これらを批判的に摂取したルソーは、立法などの国家行為を人為と考えるが、それは究極において善なる自然に合致すべきあり、教育についても自然人の善性に合致すべきと考えた。この考えは、理性の上に感情をおき道徳を越えて、再び宗教を復活させることと見なされた。ルソーは啓蒙思想家が意識しなかった個人と社会との対立を問題意識化し、自由主義を民主主義の方向に徹底し、19世紀の社会主義思想の橋渡しとなった。さらに、ドイツのカントは、人間の歴史の進歩は、まず技術的文化に達するが、さらにそれはルソーの要求する道徳化をへてはじめて完成すると考えた。これらの思想が、無形・無限なものへ憧憬、自己意識への内面的沈潜、自然への愛着、歴史的変化・発展や民族性への高い評価、などを特徴とするロマン主義に発展する。就中、ドイツのロマン主義は、哲学や文学においてどの国よりも強く現れ、フィヒテ、ヘーゲル等のドイツ観念論哲学の影響を深く受けた。その後、再び反宗教的な自然主義が現れ、ヘーゲル左派で「下半身の唯物論者で、上半身の観念論者」のフォイェルバッハ(注2)を経て、逆立ちしたヘーゲル哲学を決定的に転覆したマルクスにおいて、かつての啓蒙思想が示した急進性・革命性は発展的に後継された(注3)。この流れからリヒトハイムはマルクス主義の哲学的根源は「一種の世俗化したプロテスタンティズム」であるとも言う。(注4)

     

     3.ロマン主義的理性との関係で、さらに深く具体的にヘーゲルとマルクスの歴史・政台思想を理解するキー・コンセプトを析出するために、‥学∧験愿政治の角度からその歴史的発展を検討しよう。

     ‥学 ロマン主義的理性の哲学的展開は、カントからフィヒテ、シェリング、ヘーゲルにいたるドイツ観念論である。1790年代から1830年代にかけての世代は、カント批判哲学に触発されたと同時に、フランス革命の強烈な衝撃を受けた。かれらは、カントに残された課題に取り組んだ。フィヒテは、カントの言う人間の歴史は道徳化によって 完成するという思想を超越し、自我=主観とは、世界に対して行為し「産出する力」であると考えた。この主体活動のなかで世界を変形していくことをフィヒテはみずから「自由 の哲学」と名付け、カントとフランス革命の哲学的完成の試みとみなした。シェリングは、フィヒテに対して主観の中に取り込まれた自然そのものを重視する。自然はそれ自体を創造する生命現象としての「生産する自然」であり、ひとつの有機体である。しかも、その根源には原物質としての「世界霊魂」が存在し、自然はそれが無限に分化、個別化して、発展変化をとげ、自然=世界=人間は同一性と調和へともたらされる。さらに、フィヒテ後のベルリン大学教授になったヘーゲルは、『歴史哲学』のなかで世界史は自由の意識における進歩であると述べ、『精神現象学』では、人間の思考能力としての理性を超越した、神的な「理性」=精神=絶対者が人間の意識、自然、歴史のうちに展開するとする。世界史は、世界精神の理性的必然的歩みでり、その内容は「理性の像」である。理性の根底にあるのは神的理性であり、この理性が世界を支配していると考える(理性史観)。そして、ロマン主義を徹底的に排斥したヘーゲルの認識は、「この世界史の労働を通じてこそ人類 は陶冶されて、理性的現存である国家機構と法律との現実性と意識とを勝ち得た」という洞察に達する(注5)。一方、ハイネはこの 洞察をもって逆に「わが国の哲学革命は終了した。ヘーゲルがその大きな円環を閉じた」と理解した(注6)。


     ∧験愿  ロマン主義的理性の美学的展開は疾風怒濤(Strum und Drang)の運動に 喚起されて、ワイマールを中心にヘルダーリン、ゲーテ、シラーらの活躍によって開花した文化である(Weimar Kultur)。その特性は、ドイツにおいて最も強く、国民性と深く結びついている。ドイツの前期ロマン派の代表者であるシュレーゲル兄弟、ティーク、ノヴァーリスなどの文学観のうちには、ヘーゲルなどドイツ観念論哲学の影響がみられる。これらのおかげで、彼らの作品には、神秘的な感情、理性を越えたものをとらえよううとする欲求、自然と人間との合体、詩歌と音楽の融合への志向が見られる。後期ロマン派のグリム兄弟などには、民族童話、民謡への関心が強く、愛国的傾向の強いものも現れた。フランス・ロマン主義の本質は「自我の解放」であるとブリュンティエールが解釈したことは、ヨーロッパ全体にも言えるのである(注7)。この影響下にあった若き詩人マルクスにとって、ポエジー(詩想)とはまさに真実や歴史そのものであった。彼の詩魂のうちには、ロマン主義的イロニー=無限への否定性があり、詩人としての主体のなかには客体としての世界を創造し救済しようとする否定の弁証法=社会革命論が働いていることがすでに看取される。(注8)


     政治  18世紀末のドイツの一領邦ワイマールは、ゲーテが宰相をつとめ、「新しいアテネ」として文化意識が高揚した。そのもと美学的ヒューマニズムが提唱され、美と芸術を政治目的とする「美学的国家」構想が意図されていた。シラーは、美学的国家のためには「芸術家が立法者である」ことを要請するが、これはロマン主義者に共通していた美的な感傷であり、信仰であった。政治的ロマン主義の核心は、国家は芸術作品であり、歴史的、政治的現実における国家はロマン的主体の芸術作品を生産する原因とされた。ノヴァーリス、ミューラーにおいては国家は恋人として現れ、財政学の詩化は、恋人に贈り物をするように国家には税を払わねばならないという奉仕になった(注9)。これに対して若き頃「ゲルマニアよ、滅びよ」(注10)と唱えたヘーゲルは『法の哲学』で、個人・市民社会・国家、それ自体が「客観的精神」であるから、個々人が客観性、真理性、倫理性をもつということは、彼が国家の一員であるときだけであり、自由を現実の ものにするということこそ理性の絶対的目的なのである。国家は、人間世界のうちに立ってその中で意識をもっておのれを実現する精神であると考えを発展させた。しかし、マルクスらにとって、この理性の国とは「ブルジョアジーの国の理想化」にほかならなかった (注11)。つまり、ヘーゲルは、プロイセン国家の御用哲学者に陥り、ドイツの哲学上の独裁者となった(注12)。その意味で、ハイネは、ドイツ・ロマン主義に「反動」という熔印を押した(注13)。

     

     4.以上の多大な感化のもと、マルクスは、理性によって覆い隠されたヘーゲルの政治=神学、世俗的神性としての国家にたいして、その法制的、社会的、経済的問題の鋭い洞察力によって、それが「倒錯したイリュージョン」であることを暴露した。『経済学批判』では、「社会的存在が意識を規定」し、生産力の発展と生産関係の矛盾が社会革命を引き起こすという歴史発展の法則を発見(唯物史観)、マルクスの思想内部で、歴史法則と歴史意識をともにロマン主義と哲学に融合したのである。カントは「概念」を単なる形式、ヘーゲルは弁証法的な意味における「具体的普遍」と見なしたが、マルクスは、労働力という商品概念は単なる「抽象的普遍」ではなく、労働力を労働させることによって剰余価値を産出する「具体的普遍」であると理解した(注14)。また、「価値論に関する章のところでは彼(ヘーゲル)に特有な表現形式に媚を呈しさえ」(注15)するほどに影響し、剰余価値論を生んだ。



    (注一覧)

    (注1)「ユートピア以後」シュクラール著、紀伊国屋書店、P23〜63参照
    (注2)「唯物論と経験批判論 下」レーニン著、新日本文庫、86年、P220
    (注3)「政治思想史」小笠原他著、有斐閣、97年、P276
    (注4)「マルクスからヘーゲルヘ」リヒトハイム著、未来社、76年、P70参照
    (注5)「改訂・政治思想史掘彳猯貧遜邸慶応教材、P132
    (注6)「ドイツロマン主義とナチズム」JH.プレスナー著、講談社学術文庫、98年、P42
    (注7)「世界大百科事典」平凡社、81年版参照
    (注8)「大きな株儒の集合よ、うめいて打ち倒れよ」(「マルクス・エングルス全集補巻1」大月書店、  
    P250)
    (注9)「政治的ロマン主義」 Cシュミット著、みすず書房、97年、P157〜158参照
    (注10)「政治論文集 上」ヘーゲル著、岩波文庫、96年、P60
    (注11)「空想から科学へ」エングルス著、大月書店、77年、P57
    (注12)「理性と革命」マルクーゼ著、岩波書店、61年、P189
    (注13)「ドイツ・ロマン派」ハインリッヒ・ハイネ著、未来社、94年
    (注14)「ヘーゲル用語事典」未来社、91年、P83参照
    (注15)「資本論」 大月書店、P23
     

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