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政治学ノート(1999年) 戦後“民主政治”と恒久平和

2011.10.12 Wednesday
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    JUGEMテーマ:学問・学校

      戦後民主政治の感想を聞かれれば、平和主義において憲法から乖離した政治だったと答える。この感想を現在に到るまで歴史的に表現するために、戦後民主政治の原点である「日本国憲法」を視座に歩を進めたいと思う。 
     まず、戦後政治は民主的であったのか?の検討が最初に必要である。憲法制定過程でなされた国民主権をめぐる措抗が民主政治の原点であり、主権在民が確立したことは憲法学者・宮沢俊義氏も言うように「革命的」であった(「憲法」第3版、佐藤幸治著、青林書院、97年、P75参照)。その後、戦前への復古を掲げて鳩山内閣が誕生したことは反民主の動きと言える。憲法改正のための小選挙区制選挙制度は、鳩山、田中、海部内閣で主張され、細川内閣に至って小選挙区比例代表並立制として確立された(「戦後政治史」石川真澄著、岩波新書、98年、参照)。このことは、少数意見を封殺する奢りの政治の結末であった。 96年衆議院選挙で、自民党は小選挙区では39%の相対得票率で56%の議席を獲得しているが、これは民意を反映する民主主義と言えるだろうか。(「現代日本の政治過程」小林良彰著、98年、東大出版会、参照)

     この状況をみても、戦後政治は民主的とは言えない。戦前の臣民扱いの立憲主義より、比較的“民主的”な政治であるとも言えるが、軍国主義と決別して平和主義と不可分一体の民主主義を生んだのではなかったか。このことを前提として戦後民主政治について感想をのべたい。紙面の関係で、いわゆる民主政治がどのように日本国憲法の一原理である平和主義を変形させてきたか、に絞って考えてみよう。

     現憲法は「押しつけ」ではない。憲法9条をふくめて「総司令部からの強要的要素があったとしても、憲法自立性の原則は、損なわれていなかった」(「憲法 新版」芦部信喜著 岩波書店、97年発行、参照)とするのが国際法的、国内法的にみて正しいと思われる。 ところが、いわゆる自主性を回復しようという「改憲論」と戦後“民主”政治を年代ごとにたどってみれば、平和主義のはずの民主政治が憲法から乖離していくことが時系列的にわかる。

     50年代の改憲論の要点は、吉田首相の答弁に反して9条改正による再軍備、天皇の元首化、基本的人権の制限と義務の強調、憲法改正の容易化などで「復古的改憲論」と言われる。 50年警察予備隊が創設、52年保安隊に改称され、鳩山内閣は、1954年憲法改正を公約に掲げて登場した。同年保安隊を基礎にして自衛隊が組織される。
     
     60年代は、安保闘争などに示されるように日本国憲法の価値を体得した国民があらわれるなか、1964年鳩山内閣の「憲法調査会」が最終報告書を提出し改憲論が盛り上がりをみせたが、国民は戦前の天皇制や制限された基本的人権の状況に復古することを考える必要がなくなった。「高度成長」政策下において、特に9条にっいての恣意的な憲法解釈をする「解釈改憲」論に変化した。砂川事件などの最高裁判決がこれを補完した。(「判例ハンドブック〔憲法〕」芦部信喜編、98年、日本評論社 参照)

     70年代日本は、71年ドル・ショック、73年オイル・ショックなどの世界不況を克服し、74年「経済大国」として立ち現れてくる。このなかでヽ多国籍化した日本企業の海外権益の擁護、アメリカの世界戦略への同盟としての呼応の必要性からヽ特に憲法9条の改憲が経済的にも要請されていた時代だった。

     80年代。鈴木内閣におけるシーレーン防衛の旧「ガイドライン」は違憲との批判を呼んだが、82年これらの延長線上に中曽根内閣が誕生する。中曽根内閣は、「戦後政治の総決算」を掲げ、その内容は、防衛力の増強(「日本列島浮沈空母化」)、アメリカに対する防衛分担の増大、国際自由貿易体制の保護、税・財政構造の改革であった。82年11月の記者会見で中曽根氏は「憲法も見直し」と言い、87年1月、自民党大会において「40年間の憲法政治の実績を検討」と演説した。(「日本国憲法『改正』史、渡辺治著、91年発行、日本評論社、P8〜参照)

     90年代の改憲論は、冷戦の終結と92年1月の湾岸戦争をきっかけに、「自民党小沢調査会」の一国平和主義批判、読売新聞の改憲案などが展開されてきた。92年6月、「国際貢献」の名のもと、ついに自衛隊を海外派遣するPKO協力法案が可決される。

     96年4月には橋本・クリントン共同声明で日米安全保障体制を大転換させる中、新「ガイドライン」が提示された。 96年10月20日、小選挙区比例代表並立制による総選挙の結果、自民党239議席、新進党156議席を獲得し、併せて改憲発議に必要な総議員の3分の2を超え、すくなくとも衆議院では96条の改憲発議ができる可能性ができた。

     そして、97年5月23日、憲法調査委員会設置推進議員連盟(自民党・中山太郎会長)が発足、社民党、共産党を除いた全ての会派から375名の議員が参加した。目的は「憲法について、国憲の最高機関である国会に『憲法調査委員会』を常任委員会として設置すること」であった。(「平和憲法と新安保体制」憲法研究所・上田勝美編、98年発行、法律文化社、P178〜参照)

     99年5月22日「読売新聞」によると、2000年の通常国会で衆参両院で憲法調査会が設置される見通しとなった模様である。国会で憲法論議のための機関が設置されるのは現憲法下で初めてとなる。

     '9 9年5月24日に成立したガイドライン関連法案について「戦後“民主”政治の総決算」として触れておく必要もあろう。直近の現実政治に戦後民主政治の矛盾=平和主義からのずれが濃縮されているからである。
      「周辺事態」とは具体的にいなかなる事態か、「後方地域支援」が国際法上で武力行使にあたるのかどうか、憲法9条違反ではないか、など侃々誇々の審議が国会でなされた。
      たとえ「シビリアンコントロールがおこなわれる」(「産経新聞」98年5月22日、小林節慶大教授)としても、ユーゴ爆撃にみられるように後方を衝くのは国際的には戦争の常套手段であるように、「後方地域支援」は武力行使であり9条違反だと思う。また、国民には具体的には審議内容、地方自治体の協力内容も徹底されていないという実態は、議会制民主主義の形骸化と感じる。

     このような状況のもと、戦後数々の改憲派政治家がのぞんだ憲法9条は、条文よりさきに既成事実として改正あるいは改悪されたのである。はしなくも審議終了間近、連立与党の自由党・小沢一郎氏は「正論」6月号でガイドライン法案について「まさに戦争に参加する話なんです。」とのべた。

     以上のように50年〜90年代末にかけての改憲政治=“民主”政治は、憲法9条の改悪に達したが、世界の流れはどうか。

     1993年「パックス・デモクラティア」(鴨武彦訳、96年発行、東京大学出版会)でブルース・ラセットは、冷戦後世界への原理として、軍事力を利用して対外政策を実現することは不可能になっていることを強調した(「政治学」大嶽秀夫ら著、98年発行、有斐閣、P76〜参照)。この考えは「民主国家」についての判断に難点はあるが、憲法9条の精神に接近した思想であると考える。

     戦争廃絶の努力として、国際法では1 9 1 9年の国際連盟規約、1929年の不戦条約、1945年の国際連合憲章などが存在し、憲法では、1791年のフランス憲法、1946年のフランス第4共和国憲法で戦争放棄の規定が設けられた。しかし、これらは侵略戦争の制限ないし放棄にかかわるものにとどまった。これに対して、日本国憲法は、1947年、前文と9条において侵略戦争を含めた一切の戦争と武力の行使および武力による威嚇を放棄し、その徹底のための戦力の不保持を宣言、そして国の交戦権を否認した(「憲法 新版」芦部信喜著、岩波書店、97年発行、参照)。苦渋の世界史の到達点である。

     99年5月15日、国連非政府組織(NGO)の呼びかけで、世界IOOヶ国以上の約1万人が参加して聞かれた「ハーグ平和市民会議」は、「公正な国際秩序のための基本10原則」を行動目標とかかげ、その第1項に「日本の憲法9条を見習い、各国議会は自国政府に戦争をさせないための決議をすべき」との文言を入れた。この決議は11月の国連総会に提出される予定である。(1999年5月16日「朝日新聞」)このように「憲法9条」は、特に市民社会レベルでは世界の流れになっている。

     これらの流れに反しでまさに戦争に参加する”という新「ガイドライン」法案が可決されたことは、戦後民主政治の根本としての平和主義を台無しにし、19世紀のクラウセビッツの「戦争論」=「戦争は政治の継続」の立場に引き戻された観を否めない。憲法が予定した民主政治は、それを遵守することによって現実のものとなるのではないか。

     「悪魔(戦争)が人間に罪を着せようとするときはヽまずは最初に天使(“民主”政治)の姿でやってくる」(シェイクスピア『オセロー』( )内はヽ筆者)

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